ボンベ取り違え事故防止対策

鑑定書の公開について


神戸百年記念病院 尾崎塾 尾崎孝平

 

このたび私が書いた鑑定意見書を尾崎塾のホームページ上に公開することにしました。私は医療事故調査会という会に属し、中立の立場で医療事故の鑑定意見を書いてきました。私が担当する分野はおもに麻酔、集中治療、救急医療、呼吸管理で、毎年、何件かの面談や鑑定の依頼が手元に届きます。そのなかで同じような事故、とくにエアーウェイトラブルが後を絶ちません。私は今までに書いた鑑定書の約半分弱がエアーウェイトラブルです。尾崎塾を立ち上げて呼吸のフィジカルアセスメント実技セミナーを始めたのも、エアーウェイトラブルを認識できる能力を獲得してもらうことが最初の目的でした。しかし、いまだにエアーウェイトラブルの鑑定意見書の依頼が舞い込んで来るのが事実です。

 

 

そこで、鑑定意見書を公開し、表に上がってこない貴重な情報を皆様に知っていただき、事故から学ぶことを若い方々にもっと啓蒙していただきたいと考えた次第です。さらに申し上げると、実は皆様にも鑑定意見書を書いて頂きたい、あるいは、若い方々にも書かせていただきたいと考えております。「専門医を更新するならば、最低でも1通の鑑定書意見書を書かなければ更新できないという制度を作るべきである!」とさえ考えています。

 

 

「失敗しないために最も効果的な方法は失敗してみることである:The only way to avoid mistakes is to gain experience. The only way to gain experience is to make a mistake.」という真理をついた諺があります。

 

 

実は、鑑定書を書くということは事故を振り返り、ある意味で事故を疑似体験することであるといえます。事実、鑑定書を書くには、書く労力以上に非常に強いストレスを受けながら筆を進めているからです。「おまえはそんな偉そうなことが言えるのか」、「おまえは失敗しないのか」、こんな天の声が頭の中に常に響きながらの作業になるのです。

 

しかし、鑑定書は自分を振り返り、自分の襟を正すには最良の教材です。まったく新しい事故というものはあまりなく、同種の事故が繰り返されることがほとんどです。今回、HPにアップした事件も何度繰り返せばよいのかというぐらい起こっている事故、「抜管後の気道閉塞」です。

 

 

なぜ同じ事故が繰り返されるのかと考えると、事故防止につながるように熟考された形で事故が公表されないために、事故の悲惨さが医療者の心の中に滲み込んでいないからだと思います。そのために、よそ事だと思えないと仰る方であっても、別のことを考えるとすぐに頭の中から霞のごとく消えてしまうのだと思います。一方、万が一事故を起こしても、マスコミの興味本位な報道や心ないバッシングを恐れ、また、自分達の心苦しい思い出にさっさと蓋をしてしまいたい気持ちから、隠蔽されないまでも、当事者から語られることはまずありません。人間の記憶や感情からすると、ある意味では当然とも思います。

 

しかし、これでは事故はなくならず国民にとって不利益です。さらには、同じ間違いを繰りかえすかもしれない同僚を、リスクの海で海図も与えず放置することであると言っても過言ではありません。同じ事故を起こさないようにするためにも、私達は同僚や後輩に事故の真実と、どうすればよかったかをしっかり伝えなければなりません。

 

 ただし、事故の当事者はPTSDの状態にあり、当事者に公表しろと言うのは酷です。したがって、同僚が鑑定意見書を書き、後輩が鑑定意見書を読み、事故の恐ろしさ、連鎖する不幸、悲しみと怒りを実感すべきであると考えます。それによって事故に対する意識改革ができ、事故防止につながると考えます。私は正論を100回繰り返すより、恐ろしさを一度疑似体験して実感する方が効果的なリスクマネージメント(vaccination)であると信じています。

 

医療事故を防止するための施策が行政から示されていますが、別の視点からみると、自立できない医療を国が枷をかけて是正している情けない状況のようにも見えます。しかも、同じ間違いや事故が繰り返されるのでは、信頼できる医療として国民の目に映らないのではないでしょうか。行政指導を受けても間違いを繰り返す企業は早晩倒産するように、医療は信頼を失っていくと感じます。自分達の行う医療の安全は自分達で作り上げる努力をしなければ、エンドユーザーである患者の不安は払拭されないと思います。

 

 このたび上記のような個人的な信念から、自分の書いた鑑定意見書だけでも自分のホームページ上に公開することにしました。私はこの20年間に30件足らずですが、すべて顕名で鑑定書・鑑定意見書を書いてきました。これらは公文書として裁判所に保管され、鑑定書集もしくは裁判資料等で閲覧を希望すれば閲覧が可能です。したがいまして、著作者である私が私のHP上に公開することには、何ら法的な問題はないと考えております。しかしながら、インターネット上ですので、患者側に公開することの許諾を頂戴した上で、個人・医療施設を特定できる内容はすべて削除してから公開しております。

 

 

 様々なご意見、お叱りもあると存じますが、ご指導ならびに忌憚なきご意見をお待ちしております。ご意見を下記まで頂戴できれば幸甚でございます。

 

ozakiseminar@gmail.com