Q21. | 寒い朝にアネソキシンのボンベ内容が液化していたらどうなる?どうする? |
亜酸化窒素・酸素混合ガス(アネソキシン®)は、歯科でよく使われる医療用麻酔ガスで、アネソキシン®50は、50%ずつ酸化窒素と酸素が混合されています。さて、酸素はオーロラが見える極地域の厳冬期でも液化しません。一方、亜酸化窒素は混合ガス状態では物理的特性から-7℃になれば液化が始まります。従って亜酸化窒素・酸素混合ガスのボンベは室温(1~30℃)に保存する必要があります。そして、いったん亜酸化窒素が液化してしまった場合が問題です。
亜酸化窒素が液化したボンベの使用を開始すると、最初は気体で存在する酸素が多く出て、亜酸化窒素濃度が50%より低くなる現象がおき、時間とともにこの関係が逆転し、終盤には亜酸化窒素濃度が高く、酸素濃度が低いガスが提供されるために危険です。
したがって、亜酸化窒素が液化している可能性がある場合は、室温で24時間以上水平に放置してから、使用前によく回転振盪してください。水平に放置する理由は分子量の差(N2O:44,O2:32)にあります。ボンベを横に置くと亜酸化窒素と酸素が早く均等に混合されるためです。
Q22. | 二酸化炭素ボンベ、笑気ボンベの残量はどうやって求める? |
二酸化炭素と亜酸化窒素はともに液化ガスで充填されています。酸素のように圧縮ガスが充填されている場合は、残量はボンベの内圧を測定することでもとることができます。しかし、液化ガスの場合、残量に関わらず液体が存在すれば、内圧は一定(亜酸化窒素の場合は室温で5.1~5.7MPaの範囲)であり、圧力を測っても残量を求めることは出来ません。一方、液化ガスが消費されて容器内に液体がなくなると使用量に比例して圧力が低下し始めます。つまり、ボンベ内圧が低下する現象を認めた場合は残量が少ないことを意味し、圧力低下を認めたらボンベ交換を準備するべきです。
したがって、ガス残量を求めるには、まずボンベ重量を測って液化ガス重量を求める必要があります。液化ガス重量はボンベ重量から容器重量を除して求めますが、注意点として容器重量はボンベ容器自体の重さと、ハンドルと口金部分(容器弁)の重さを合計したものになります。
液化ガスの重量=ボンベ重量(実測値;kg)ー{ボンベ容器重量(打刻印:Wの重量)+容器弁重量(弁側部に打刻)}
このあとの残量計算は、二酸化炭素と亜酸化窒素で質量が違うために、異なります。
【二酸化炭素】
液化二酸化炭素1kgは、大気圧下20℃で502Lとされるので、求め方は次の通り。
二酸化炭素ガス量(L)=液化二酸化炭素重量(kg)×502
【亜酸化窒素】
液化亜酸化窒素1kgは、大気圧下20℃で540Lとされるので、求め方は次の通り。
亜酸化窒素ガス量(L)=液化亜酸化窒素重量(kg)×540
なお、いわゆる新品ボンベ(充填後)に入っている液化亜酸化窒素の重量は決まっており、どのメーカーも3.5L容器には、2.5kg入りとしています。したがって、充填後の3.5Lボンベ(新品)では、
亜酸化窒素ガス量(L)=2.5×540=1350L となります。
Q23. | 二酸化炭素ボンベが空になったので、口金部分に付く圧力調整器をモンキーレンチで交換した。さてどこが問題? |
この問題は引っ掛け問題です。二酸化炭素ボンベには、口金タイプが、ネジ式バルブ(工業用)とヨーク形バルブ(医療用)があります。Q.33は「麻酔科医・集中治療医のための」が冠してあり、医療現場が対象です。したがって、医療現場にネジ式の口金タイプの二酸化炭素ボンベがあること自体が問題です。
医療現場ではヨーク形バルブがついた医療用二酸化炭素ボンベを用いることになっています。最近はかなり徹底されてきていますが、それでもプロトタイプの機器が導入されたときや実験棟から機器を持ち込んだりするときに紛れ込むことがあり、このような行為がないように厳に監視すべきです。
なお、酸素ボンベなどのネジ式の口金タイプでは圧力調整器を脱着するときにモンキーレンチを使用している施設がありますが、調整器のナット部分が潰れないように「専用のレンチ」でと指導されます。
Q24. | 最新の高級人工呼吸器(XL、840など)は酸素と空気の供給が途絶しても、最低の換気は維持される? |
維持されません。いくら高級な人工呼吸器でも、空気と酸素をプロポーショナルバルブで流量を制御しているタイプでは全く駆動しません。ただし、最近の機種ではどちらか片方であれば換気行為は維持されます(酸素濃度は駆動するガスの濃度になります)。これに対して、ブロアモーター(タービンブロアモーター)で駆動する搬送用NPPV用の人工呼吸器は、酸素と空気の両方が供給途絶しても、掃除機のモーターと同じ原理なので大気を取り込んで換気が行えます。
Q25. | すべての人工呼吸器は、酸素もしくは空気だけでも換気が可能である? |
国家試験的にも「すべて」とくれば間違いで、すべてではありません。シーメンス・サーボ900シリーズは、100%酸素濃度設定で酸素配管のみ、あるいは、21%酸素濃度設定で空気配管のみならば稼動しますが、この間の酸素濃度では、片側配管では駆動停止します。
一方、ガス駆動ベンチレータを有する麻酔器では、予め駆動ガスに酸素か空気か、どちらかを選択し購入します。その場合、酸素を駆動ガスに設定していると、酸素供給が遮断されると換気停止します。このように使用する機器の特徴を把握しておく必要があります。
Q26. | そのときの酸素濃度と換気量はどのようになる? |
酸素もしくは空気の片側配管になった場合、最近の病棟用人工呼吸器では酸素濃度設定にかかわらず、供給される側のガス酸素濃度(100%か21%かのどちらか)での換気になります。
換気量に関しては、片側供給になった直後の短時間(数呼吸だけ)、1回換気量が僅かに不安定になる機種がありますが、ほとんどの機種で臨床的に問題の無い誤差範囲の変動に止まります。
しかし、駆動可能な人工呼吸器でも、古い機種では1回換気量が1〜2割程度増減したり(CVシリーズ等)、サーボ900シリーズのように換気停止したりする機種があるので、予め確認しておくことが必要です。
Q27. | 人工呼吸器はバッテリー駆動が必ず装備されるが、何時間の駆動が義務付けられえている? |
バッテリー駆動時間に関して、現時点では義務付けられる時間や容量はありません。ただし、多くの機種は30分〜60分程度稼働可能なバッテリーを準備しています。しかし、医療ガスのトラブルに際して適切な対応をするために、将来的には4~6時間の稼働時間を確保できるようにしようという試案があり、各メーカーで検討中とのことです。数時間の稼働時間を確保するには、バッテリーのコストパーフォーマンス、サイズ、重量などの点で改良すべき問題点が多くあるそうです。
Q28. | NPPV専用人工呼吸器を3.5L新品酸素ボンベで駆動するとき、通常成人を100%酸素で通常初期換気設定で開始すると、何分駆動できる? |
ご存知のようにNPPV専用人工呼吸器(たとえばBiPAP Visionなど)の呼吸回路は、1本の蛇管(Single branch)とマスクしかもたないために、マスク側のどこかに意図的なリークを発生させる孔(Intentional leak port)を有しています。したがって、NPPVでは強制換気や自発呼吸がない状態でも、ガスは常に回路内を患者側に流れ、リーク孔から大気中に常時漏れている状態です。
したがって、ガスの消費量は、このリーク量に患者の分時換気量を加えたものになります。リーク量は回路内圧が高くなれば高くなるほど多くなり、通常使用されるPEEP 5cmH2Oでも40L/min近くのリーク量が発生しています。これに分時換気量を仮に5L/minとして、吸入器酸素濃度100%設定とすると、1分間の酸素消費量は40数L/minになります。
3.5Lの充填済みの新品酸素ボンベの使用可能量は
3.5L×15MPa×10×0.8 = 420L
したがって、NPPV専用人工呼吸器を上記設定でボンベ駆動すると、約10分でボンベ交換になります。
ただし、タービンブロアタイプは大気を取り込んで酸素濃度を調節できるので、50%酸素濃度であれば、約25分酸素濃度を維持できることになります。
Q29. | 6床のICUで全員を酸素ボンベで人工呼吸器を駆動して1時間人工呼吸を維持しようとすると、開始に必要な準備、準備に要する時間、ボンベ数は? |
まず、通常使用できるボンベは酸素ボンベしかないと考えると、吸入酸素濃度は当然100%になります。(通常、空気ボンベは院内にありません。)
人工呼吸器のガス配管はピン方式(もしくはシュレーダー方式)のアウトレットにしか接続できないために、ボンベ駆動の場合にはピン方式のアウトレットをもつ圧力調整器が必要になります。6台全部の人工呼吸器で換気を開始するならば、少なくともこのタイプの圧力調整器と酸素ボンベの組み合わせが、台数分の6組必要になります。そして、これら組み合わせを作成するためには圧力調整器を接続するための専用レンチが必要です。したがって、
①6本のボンベを各ベッドサイドに搬送し
②クラッキングして
③圧力調整器を接続もしくは交換し(レンチが1本なら順番待ち)
④アウトレットを壁面からボンベ側に再接続し
⑤ボンベを開栓して圧力を確認
⑥人工呼吸器の駆動を確認
⑦最後に患者の呼吸をアセスメントする
上記項目を完了するだけの時間が必要になります。熟練したスタッフが実施し、全て準備が整っていたならば、確かに1台について1~2分で完了できます。しかし、たった一人で全部を実施するならば、軽症患者を最後6番目にしでも、交換時には患者のSp2Oは低下し、ETCO2はかなり上昇している可能性があります。
さらに、人手以外にも、準備がない、必要物品の名称・構造・保管場所を理解していないために作業が滞る、誤った装着(空ボンベ、フローメーター付き圧力調整器、レンチがない)などで、貴重な時間はいとも簡単にロスします。もし、実施するなら日頃から徹底した訓練を実施すべきでしょう。
次に必要ボンベ数をもとめましょう。分時換気量を10L/minとして、最近の病棟用人工呼吸器(XL,840など)を使用していると仮定します。これらの人工呼吸器は分時換気量以外に稼動に必要なガスを別途消費しています。すなわち、ブリードフローやリファレンスガスなどと呼ばれるガス流量で、患者を換気する以外に約4L/min(f:20回/min,TV:500ml,MV:10L/minの条件で)を消費しています。したがって、6台の人工呼吸器の酸素消費量は、
{(10L/min+4L/min × 60min× 6(台)}÷(425〜400L/1本)=約12本
6床のICUに、6つのピン方式圧力調整器と12本の酸素ボンベとが準備されている施設は皆無に近いのではないでしょうか?皆様の施設はいかがでしょうか?
※本設問に対して、医療ガスを扱う業者の方から以下のご意見を頂戴しています。
この設問は震災等の緊急時の他に、ICU・手術室などのエリアの改修工事時が実施される際に発生するケースに該当すると思います。その場合、上記のように計算上12本のボンベが必要ということであっても、実際には事前確認、ガス失調対策などが必要なうえに、慣れないとボンベ交換にも時間を要し、予備ボンベ置場との距離、配置人員等の理由により、事実上計算以上のボンベ本数が必要になります。その他、必要機材等の準備も考慮しますと、医療施設側で万全な対応をすることは不可能ですので、知識として覚えていただくという位置付けになるかと思います。
Q30. | 自発呼吸のない気管挿管された患者6名がいる満床のICUで全てのガス供給が途絶した場合、全ての患者を換気する最善の策は? |
47Lの酸素ボンベと緊急導入口付き新型ゾーンバルブ(シャットオフバルブ)もしくは逆送システムから酸素供給を行う方式を採用します。
まず、閉鎖しようとするゾーンバルブ(シャットオフバルブ)が支配する領域を把握しておく必要があります。間違ったゾーンを閉じると大変なことになります(問題5参照)。ゾーンバルブを閉じて、逆送するゾーンを閉鎖回路にしたのち、新型ゾーンバルブの緊急導入口に47Lボンベ(約7000L)の圧力調整器を取り付けた酸素ボンベからのラインを接続し、ボンベを開栓します。そして、ゾーン内の圧力が400〜450kPa(4〜4.5kgf/cm2)になるように調整し(必要ならば)、正常な酸素配管圧が維持できているかを確認する。なお、一部の緊急導入口への接続ラインにはDISS規格が採用されるために、ピン方式(もしくはシュレーダー方式)のラインでは接続できないので事前に確認し、必要な長さのラインを常備しておいてください。
このような緊急導入口システムが無い場合には、「アウトレット逆送システム」を構築します。目的とする領域のゾーンを閉鎖するところまでは同じです。異なるのは緊急導入口がないのでゾーン内の任意のアウトレットの1箇所を導入口として使用する点です。したがって、47Lボンベの圧力調整器にピン方式のコネクターを先端にもつパイプラインを準備しておく必要があります。
Q31. | CPAP下にある患者に接続される人工呼吸器のガスと電気の供給がすべて停止したとき、患者はどうなる? |
吸気呼気回路(double branch)をもつ病棟用人工呼吸器および在宅人工呼吸器は、換気停止した場合には緊急開放弁が開放され、呼吸回路は必ず大気に開放されます。ガスは弁で一方向にしか流れないために死腔は増えません(人工呼吸中と同じ)。ただし、人工呼吸器によっては吸気・呼気の抵抗が高いものがあり、呼吸筋疲労を有する呼吸不全患者には大きな負荷になる可能性があます。このような場合には乾燥や粉塵などの問題がなければ気管チューブを直接大気に開放した方が呼吸仕事量は少なくなります。
一方、麻酔器はこのような機構をもたないために、バッグにリザーブがなければ窒息の危険性があります。また、たとえバッグにリザーブがあって換気運動が可能であっても死腔換気になります。回路内にソーダライムが配置されるのでCO2は上昇しませんが、患者が酸素を消費した分だけ低酸素症が進行することになります。
Q32. | タービンブロアタイプの人工呼吸器は、電気、ガスが途絶しても正しく駆動するって本当? |
タービンブロアタイプの人工呼吸器でバッテリー駆動が可能な機種であれば、バッテリーが稼動する間は大気を取り込んで空気換気することが可能です。しかし、バッテリーが枯渇すればただの邪魔な箱になります。
タービンブロアタイプはNPPV専用の人工呼吸器の大部分に使用されます。もしブロアモーターが停止して、NPPV実施中に患者へのガス供給が途絶すると、顔面に付けているインターフェイス(マスク)は大きな死腔になるだけでなく、小さなリークポートを通しての呼吸だけでは患者は呼吸困難に陥ります。
このためにNPPV専用機では回路にガスが流れなくなると、回路およびインターフェイス内が大気圧と等しくなり、陽圧で閉じていたインターフェイスの緊急開放弁が開放され、これによって大気呼吸が可能になります。したがって、開始前にはガスが途絶した状況を実際に発生させ、必ず緊急開放弁の動きを再確認すべきです。
注意すべき恐ろしい事象を紹介しておきます。病棟用人工呼吸器(吸気呼気回路でNPPVを実施するタイプ)のNPPV実施時のマスクには、上記のような安全機構は存在しません。理由は、吸気時に流量が少なかったり、吸気のタイミングか遅れたりすると、マスクの緊急開放弁が開放してしまい、二度と閉鎖できないからです。このためsingle branchの専用機でなく、病棟用人工呼吸器ではリークの無いマスクが使用されます。このタイプのマスクが専用器に流用されることがあり、換気停止時に非常に危険なのですが、リークポートがあれば正常に駆動するために見過ごされます。一方、病棟用人工呼吸器のよるNPPVで、非常に大きな容量のインターフェイスをリークポートを閉じて使用しているケースもあります。鼻マスク程度の死腔であれば問題はありませんが、容量の大きなものを、リークポートを閉鎖して使用しているケースがあり、死腔増大の危険性が放置されていた症例があります。
NPPVはNPPVの専用機で実施すべきであると私は信じます。メーカーの方はいかがお考えでしょうか?
Q33. | 最後に問います。院内の電気とガスすべて途絶した真夜中に、蘇生バッグ1個しか準備されない場合、貴方は6人の気管挿管患者なら何分間、換気維持することができますか? |
テスト肺を並べて実際に是非試してみてください。非常灯で薄暗く見えていても蘇生バッグをもって、用手換気しながら6ベッドを往復するのは至難の業です。そして、震災ではOKのゴールが見えません。とりあえず朝が来てものが見えるようになるまでと思っても、数時間もマラソンするのは若者でなければ無理でしょう。一方、若者の研修医ではバッグの押し方や患者の胸郭の診かたが分からないという事態がきっと起きると思います。また、見えないなかで急ぐと事故抜管の危険性、実施者の転倒事故なども十分に起こりえる問題だと考えます。
この解答を作るにあたって、神戸百年記念病院のOP室有志6人で実際に蘇生バッグによる用手換気の実験(トライアル)をしてみました。
■実験1
並びのOP室と器材庫と入口ホールをOP室に見立てて6室とし、扉間隔は約4mで、楕円形に配置して、これをできるだけ早く周回
OP室の各部屋のベッドに気管チューブを立ててOP中患者に見立てる
蘇生バッグは1個
用手換気は最大にバックを押して、1チューブに対し1回吸気呼気を2秒程度、3回換気
照明下で、全チューブを順次換気して、走って3周回った時間を計測、問題点を挙げる
結果: 平均1分16秒/1周
スリップジョイントの脱落4回(作りが少し甘かった)
蘇生バッグの吸気バルブが緩んで分解した1回
※最初全力疾走すると、3周目に結構バテ気味になる。継続するには少しペースダウン要
■実験2
実験1と同じ条件で、暗い中で実施(真っ暗はほぼ換気不可能)
2箇所の非常口扉灯と各室モニター画面の照明
結果: 平均1分5秒/1周
スリップジョイントの脱落2回(少しきつくしたため減った?)
蘇生バッグの吸気バルブが緩んで分解した1回
※薄暗くても見えれば換気できた(患者の胸の動きは分かりにくいと思う)
※2回目なので慣れがあって動きがスムースになった要因が大きい
■実験3
実験1と同じ条件で、各チューブにすでに蘇生バッグが装着された状態
結果: 平均 49秒
※実験1と比較し、1回の蘇生バッグの脱着で約4.5秒ロスしていると推定される
■実験4
実験1と同じ条件で、オープンユニットICUのようにベッドを配置
ベッド間隔は約2m
結果: 平均 39秒
蘇生バッグの吸気バルブが緩んで分解した1回
※チューブが入り口側に置かれたので、走る距離が大幅に短縮
■実験5
実験4と同じ条件で、各チューブにすでに蘇生バッグが装着された状態
結果: 平均 25秒
※1回の蘇生バッグの脱着によるロスは約2.3秒のロスに短縮したのは、慣れと推定される
考察というよりも感想ですが、蘇生バッグ1個は厳しい状況です。脚力に自信があってもかなりの重労働です。しかも患者生命が換気に依存しているという精神的なストレスも相当なものと想像されます。さらに、脱着でトラブルも発生しやすいことが明らかとなり、逆に少しでも照明があればかなり安全に換気することができるという新たな発見もありました。個室化が進むICUや病棟では上記の手術室パターンとなり、全患者を換気するには相当の速度で換気しながら疾走しなければなりません。
したがって、各人工呼吸器、各手術室には蘇生バッグと懐中電灯、マスクなどの緊急用器材を常備しておくべきでしょう。きっと次は貴方の地域に天災はやってきます。リスクを想定し、何卒そのときに備えてください。
解答・解説は以上です。
最後に、医療現場にはまだまだ危険な医療ガストラブルの落とし穴が潜んでいます。これはガス業界と医療界で医療ガスに対する考え方が異なることがひとつの大きな理由です。たとえば、アウトレットに使用する二股は、ガス業界は緊急避難的に使用する器具であるという認識であるのに対して、医療界ではあたかも恒久使用できる器具として考えています。そして、そこには何の規制もないという状態です。この状態で事故が起こると、杜撰な管理と言われるのは何の対応もしていない医療界であることは明らかであり、事実を認めざるを得ない状況があります。
医療ガスを安全に使用するには、ガス業界と医療界のより風通しのよい意見交換が必要であると考えます。とくに医療界側は、一定の医療ガス知識のある臨床家グループが対応する必要があります。単に行政者でもなく、ガスに無知な臨床家でもなく、研究者でもない、医療ガスのことをよく知っていて行政やマスコミに影響力のある、きっとそんな人が対応すべきなのでしょう。
今後、尾崎塾がそんな役割の一部でも果たせたらいいなと思っておりますので、これからも皆様のご指導ご鞭撻を頂戴いたしたくお願い申し上げます。
2011年5月20日
尾崎塾 塾長 尾崎 孝平
謝辞
宇野 宏志様 | (スカイネット株式会社) | |
衣川 真二様 | (岩谷産業 産業ガス本部エアガス部) | |
嵯峨 孝一様 | (住友精化株式会社ガス部門) | |
高根沢 浩平様 | (フィリップス・レスピロニクス合同会社) | |
高野 英一様 | (小池メディカル) | |
野口 裕幸様 | (尾崎塾CE部) | (アイウエオ順) |
本稿を査読していただき、貴重なご意見を頂戴しました皆様に心から感謝し、厚く御礼申し上げます。 |