Q11. 3.5L酸素ボンベの圧力ゲージが10MPaのとき、酸素流量5L/minで使用可能時間は?

3.5Lのボンベは一般に病棟に配備される大きさのボンベで、片手で持てる一番大きなサイズのボンベ容器です。つまり「V3.5」と打刻してあるもので、多くのボンベでは最高充填圧が14.7MPa(150kgf/cm2)です。一部では10MPaを充填圧に設定している業者もあるので、確認が必要です。また、最近では3.5Lではなく、なぜか3.4Lのボンベが主流になっています(理由不知)

残量の計算は次のように計算します。

単位がMPa(メガパスカル)の場合:

酸素残量(L)=ボンベ内容量(L)×圧力計指示値×10

単位がkgf/cm2(キログラムフォース•バースクエアセンチメートル)の場合:

酸素残量(L)=ボンベ内容量(L)×圧力計指示値

∴設問の酸素残量は、3.5×10×10=350L

次に残量に安全係数(0.8)を掛けて使用可能量を求めます。

安全係数は、ボンベを完全な空にしない、メーター誤差、メーター読み取り誤差、交換時ロスを考慮した係数とされます。

使用可能量=残量×安全係数(0.8

∴設問の使用可能量は 350×0.8=約280L

使用可能時間=使用可能量÷使用流量

∴設問の使用可能時間は、 280L÷5L/min56

という結果であり、約60分使用可能ということになります。

4分余のサバ読んでいますが、安全係数が掛けてあるので問題ありません)

 

上記の使用可能量には、実はいろいろな判断があり、統一されていません。半分以下で交換という方針の国(アメリカ)もあります。車にガソリンを給油するとき、貴方はどれぐらい減ってから給油しますか?都会と田舎、毎日の走行距離、車の燃費で変わってくるのと同じでしょう。私は7割減ると給油を考えはじめ、8割以上減ると給油しているように思います。しかし、もっと几帳面な方は半分で給油するのでしょうね。

日本麻酔科学会に楯突くつもりはございませんが、麻酔器の始業点検の指針によると、麻酔器に装備された酸素ボンベは、10kgf/cm2981kPa以下では直ちにボンベの交換を行うとあります。しかし10kgf/cm2の酸素ボンベ残圧では、ガス残量はわずか35Lなので、もっと早く交換した方が良いように思います。

実は多くのガス屋さんが病院の新人指導の場で苦慮しています。彼らは「最後まで使用せず、安全を優先して7~8割で交換してください」と指導しているのです。ところが、医療ガスの専門家と言ってよい親方麻酔学会が93分まで使用し、これ以下になってから急いで交換せよと言っているのです。災害時ならばともかく、平常時では問題があるとは思いませんか?(始業点検をすると毎日少しずつですがロスしていくので、確かに勿体ないことであるのも事実ですが・・・・)

車のスペアタイヤや燃料予備タンクは不測の事態を想定しているものであり、私は麻酔器の背面に置かれる予備のボンベも常にフルに充填されたもの(満タン)であるべきと思います。

Q12. 新品のボンベは空ふかし(クラッキング)する必要ないって、本当?

嘘です。新品でも何があるか分からないので空ふかしすることが推奨されています。中途使いのものを再使用する場合に空ふかしは不可欠です。ゴミや水分が減圧弁や人工呼吸器に入ると、発火事故や換気停止、機器故障の原因となります。とくに酸素ボンベの発火事故は助燃性ガスであるために、火災に発展する危険性が高く注意しなければなりません。

なお、空吹かしは人の居ない方向に向けて実施してください。

Q13. 酸素ボンベの安全弁はどこにある?開いたらどうやって閉じる?

一般的な鋼鉄製ボンベ(ヨーク弁でなくネジ式の口金タイプ)では、口金の反対側にある六角ナットの内部が安全弁(安全板とも言われます)になっています。そしてナット側面のあり、ボンベ内圧が上昇して安全弁が開放される(もしくは安全板が壊れる)と、酸素はこの孔から大きな音とともに勢いよく噴出します。このためにボンベはくるくる回転したり、走ったりします。最近の新素材ボンベでは孔の位置がボンベによって異なるので、使用しているボンベの安全弁の位置と噴出孔を一度確認しておきましょう。

TP24.7MPaのボンベでは、内圧が19.6MPaで安全弁が作動し、内容が大気に開放されます。これ以外にも、安全弁は転倒や落下の衝撃でも容易に作動します。

安全弁は一度開くと閉まらない構造(安全板)になっているために、ガスが出きってしまうまでは、火気のない風通しのよいベランダのような場所に放置します。誤って安全弁の孔を指で押さて止めようとしても、決して漏れは止まらないばかりか、指先を低温で傷つける危険性があります。そして、安全弁が開放されたボンベは、開放されたボンベであることを明記したメモを貼り付けて業者に返却します。

Q14. 圧力調整器のパッキンが破損したとき、厚紙を切ってパッキンを作成して代用する?

ボンベの連結部には油分、ゴム、皮革、紙などの可燃物を用いていけません。専用のワッシャーもしくはパッキンを使用すべきで、予備を常備するようにしましょう。私も厚紙で工作してガス漏れを改善したことがありますが、これは法令違反です。

ちなみに紙の発火点(ものが燃え出す温度)は450℃です。次問で解説する断熱圧縮による温度上昇が起こると、紙パッキンがいかに危険かよくわかると思います。

Q15. 圧力調整器部分で断熱圧縮が起こると、単純にボイルシャルルの法則では温度が何度に上昇する?

断熱圧縮とは、大気圧状態のガスを外部に熱が逃げないように(断熱して)圧縮し、高圧のガスにすると、ガス自体の温度が上昇する現象。簡単にいうと注射器の先端を指で閉鎖して、ピストンで中の空気を圧縮するとシリンジが熱くなる現象です。要は物理で習ったボイルシャルルの法則【 PV / T =PV/T’】のことです。したがって、体積V,V’)が一定と仮定すると、150気圧の圧力が加わると温度(T’)も150倍になることになり、設問の解答としては、室温20とすると3000となります。しかし、ボイルシャルルの法則は理想気体についての法則なので、実際には3000にはなりません。断熱圧縮の温度上昇に関しては、ガスの専門家が使用する熱力学の計算式があり、ポアソンの式をベースに、ボイルシャルルの法則で変換したものが使用されます。

2/T1=(P2P1(γ-1/γ)

1:初期温度(K),T2:到達温度(K),P1:初期圧(kg/cm2),P2:到達圧((kg/cm2),比熱比;酸素1.4

120℃(293.15K),P11kg/cm2(大気圧),P2150kg/cm2,γ=1.4を入れると、

21226.95 K954℃

これに従うと、圧力調整器部分にある大気温度が20として、ここに14.7MPa の酸素が一気に流入すると、圧力調整器内のガスは954と計算されます(実際には熱伝導などもあり、これも理論値です)。

しかし、煙草の火が700850といわれるので、可燃物が存在すると十分に発火する温度であることは容易に理解でき、発火事故は決して他人事ではありません。

したがって、開栓は断熱圧縮による発火事故などを防止するために、ゆっくりとハンドルを回すように注意喚起されます。

なお、発火事故を防止するために、ボンベの口金部分には高圧になっても発火しにくい金属である真鍮が用いられます。口金部分が金色に光っているのは真鍮の色で、真鍮は68.6MPa以下の圧力では燃焼せず、米国FDAから調整器に使用する安全な材質1999.2FDA)と認定されています。

Q16. 酸素ボンベを使用するとき、ハンドルは完全開放位で使用するのが正しい?

正しくない!完全に開栓した位置から約半周(1/41/2回転)閉じる側に回して使用する。

完全にハンドルを開けた位置のまま使用して、ボンベ内が大気圧まで空になった時、他のスタッフには完全開放位で空なのか、圧が残っていて閉栓されているのか判らなくなります。皆さんも空のボンベを一生懸命に開けようとして、ハンドルが二進も三進も動かなくなってしまったという経験はありませんか。(私は動かなくなったハンドルをモンキーの頭で叩いて動かそうとしたことがありますが、後から考えると恐ろしいことをしていたと思います)

最近の視認インジケーターが付くボンベでも、やはり完全開放位から少し閉栓側に戻すことが推奨されます。ただし、水素などの可燃性ガスでは、漏れを皆無とするためにハンドルは完全開放位で使用することが決められています。そろそろ、水素も臨床現場に出てきそうなのでご注意ください。

Q17. 高圧ボンベを開栓するときは、圧力ゲージがスムースに上がるのを確認する必要がある?

間違い!ボンベの開栓時には、圧力ゲージを見ていては危険です。失明の危険性があります。

圧力ゲージは壊れやすい繊細な構造であるうえに、ガラス板や鋭利な指示針で構成されます。さらに圧力ゲージは圧力調整器から出っ張るような形で配置され、乱暴な扱いですぐに破損します。

したがって、圧力ゲージを対面直視しながら開栓すると、開栓と同時に圧力ゲージ自体が爆発するように破裂して、破片・部品が対面するスタッフの顔に向かって飛んできて突き刺さります。実際に失明した事故の報告(アメリカ)があります。見た目に問題無い圧力ゲージでも中が壊れているかもしれませんので、過信は禁物です。

圧力調整器についても、できるだけ開栓するスタッフの位置から遠ざけ、ハンドルの向こう側に置いて開栓し、圧力調整器部分の発火・破裂の危険に備えてください。

Q18. ボンベと圧力調整器の接続部分に錆がある場合には、専用オイルで錆を除いてから使用する?

ボンベ自体が「禁油」です。特に接続部分に油脂類を使用したり、可燃性素材のパッキンを使用したりすることは発火の危険性があり禁止されます。錆や汚れがある場合には、取り扱い業者にその旨を告げて返却し、使用しないでください。

また、専用の油脂類・オイルなどはありません。また、ボンベが汚れたからといって、消毒にアルコール、エチレンオキサイド等を用いてはいけません。

Q19. 圧力調整器を口金から外すのに必要以上に力が掛かる場合には、何を考える?どうする?

ボンベのハンドルを閉栓しても、手回しタイプの接続部分がまったく動かない、もしくは、専用のスパナでも非常に強い力を要するなどの現象が認められるときには、圧力調整器内の圧力が減圧されていない場合がほとんどです。飛行機の客室は与圧されているために、上空では内開き扉が決して開かないのと同じです。したがって、そんなときの対応は、調整器の末梢の装置から酸素を消費して、調整器内の圧力を減圧して大気圧に戻すことです。嘘のように簡単にネジが回転します。

ところで、圧力調整器を装着したまま長期間放置している場合には、錆付くということがあるかも知れませんが、圧力調整器を装着したまま長期間ボンベを保管することは推奨できません。

Q20. 笑気の臨海温度は36.5℃、ボンベを40℃の温度環境に置くとどうなる?

「笑気」という言葉は、私の同僚達は今でも比較的よく使用します。ところが、日本麻酔科学会の「麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン」に亜酸化窒素(別名:笑気)としてリストアップされた頃から、「笑気」は原稿から消え、言葉として聞く機会も少なくなり、その使用料も減少しています。

しかし、麻酔器に「笑気」の配管がある限り、麻酔科医には安全使用の義務と管理責任が存在します。亜酸化窒素(別名:笑気)のボンベは液化ガスで充填され、その臨界温度です。単純に考えると、この温度を超える状態に置かれると、液化ガスは急速に気化してボンベ内圧は急上昇するはずで、40では安全弁が開きそうに思えます。しかし実際には、ボンベ内圧は12.5MPa程度であり、この圧力では安全弁は作動しません。同じ現象は液化二酸化炭素ボンベ(臨界温度31℃)でも見られます。つまり、生ビールの炭酸ガスボンベは真夏に31℃以上の野外でも使用されますが、安全弁は開放されません。

少々難しい現象なので参考書をそのまま引用しますと、「亜酸化窒素は臨界温度をこえても理想気体にならず、圧縮係数*は0.3前後で、気液混相の形で存在するため、40での内圧は12.5MPaであり、室温では安全弁は作動しない。」だそうです。

*:(圧縮係数)=(現実の気体容積)/(理想気体の容積)

 

しかし、そうかといって暑いところにボンベを放置しないでください。夏季に直射日光があたるような場所にボンベを放置すると、ボンベ温度が40℃を超えて上昇し、ガスが噴出する危険があります。したがって、亜酸化窒素のボンベは40 ℃以下で保管するように指示されます。もし安全弁からガスが噴出している場合は、低酸素症やボンベ凍結に注意し、そのまま危険のないところで放出させてください。